いずみ会は、旧都立大泉中学校・都立大泉高等学校の卒業生で構成される同窓会組織です

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2月17日(土)附属中学Ⅲ年生を対象として開催された令和5年度職業講話、報告4回目です。
講師の杉浦智恵さんは高校32期、永年携われている「司法通訳」という非常に特殊な仕事について、日本の司法制度の概要も含めて幅広い講演をしていただきました。
当日は明け方近くまで忙しく仕事に就かれておられた中、貴重なお講演をしていただきました。
また、当日受講生から寄せられた質問について丁寧な回答をしていただいています。

     司法通訳の仕事
         高校32期 杉浦智恵  

 1クラス50分という時間の中で、この特殊な職業について中三の皆さんがどれだけ興味を持ってくれるだろうか?と心配な気持ちで登壇しましたが、私と対話をすることをためらわず、私の講義の内容にアクティブに参加してくれた生徒さん、ありがとうございました。感想文も読ませていただきましたが、多くの人が「公民の授業で習った」ことについて触れており、タイムリーだったのはラッキーだったと思いました。それから、AIに通訳をさせるのには限界がある、という話に食いついてきた人も多く、これから多くの仕事がAIにとって代わられるという話をよく耳にするため、人間力をはっきりと肯定したことで、皆さんの将来への不安を少し取り除くことができたのかな、と思いました。また、数名の方が、「意訳する必要」について触れていらっしゃいましたが、誤解してほしくないのは、基本的に司法通訳は、「意訳」をしてはいけません。たとえ、その人が「訳のわからないこと」を話しても、「訳のわからない日本語」に訳さなければいけません。こう訳したら、訳わからないよね、と思って、自分で勝手に意をくみ取って訳すことは、司法通訳が最もやってはいけないことです。私の説明の仕方が悪かったかもしれませんが、私が伝えたかったのは、「相手の話す言語の対訳として最も適切な訳語を使う」ようにしなければいけない、ということで、決してわかりやすく意訳するのではない、ということだけ、覚えておいてください。私の講義を聞いて、裁判の傍聴に行ってみようか、と思った方がいたのも喜ばしいことでした。もしかしたら、私がたまたま、裁判通訳しているかもしれません。その時はぜひ声をかけてください。

 

以下、皆さんからの質問に簡単にお答えさせていただきます。

Q:司法通訳に資格は必要か?

A:裁判所に履歴書を提出する際、語学力を証明する資格を記入し、通訳実績なども添付しますが、資格試験のようなものはなく、履歴書、そして裁判についての考えをまとめたペーパーを裁判所に送り、書類審査が通ったら、裁判官面接をうけ、裁判所への登録を認めてられるかどうか、判断されることになります。ちなみに私がもっている語学力を示すものは、英検1級、独検1級、TOEIC935点です。

 

Q:司法通訳の正義感について

A:通訳に求められる正義感は、「正しく相手の話を通訳すること」ですね。通訳は警察官でも検察官でもありません。中立的な立場で、どちらにも寄らずに通訳をすることをぶれずにやらなければいけません。時に「あなたの言っていることはわからない」とか「ちゃんと通訳しているのか」などと罵声を浴びせられることもありますが、何と言われようと、自分を見失わずに誠心誠意訳すことに努めるしかありません。

 

Q:通訳をしていて怖いと感じたことはありますか?

A:いかにもマフィアのメンバー、という人に遭ったこともありますが、仕切り板の向こう側にいましたから、怖いとは思いませんでした。警察ではすぐ近くで訳すことになりますが、警察官が近くにいますし、腰縄で縛られているので、怖くはありません。

 

Q:司法通訳と捜査機関や裁判所との関係は?

A:警視庁とは1年契約を毎年結んでいます。検察庁は3年間有効の通行証をもらっており、それがあれば、検察庁、裁判所などへの出入りは自由になります。検察の通行証をもらえるようになるまでにしばらくかかります。検察が通訳能力を認めると通行証が渡されます。裁判所とは、面接が通って登録をされたら、こちらも1年毎に契約更新となります。弁護士の方は、弁護士会に登録したり、「法テラス」という弁護士を紹介するエージェントに登録をします

 

Q:海外での少年法の適用について

A:この件については、わかりません。同じような運用かと思います

 

Q:司法通訳の報酬について

A:警察、検察、裁判所、法テラス、など機関によって時給がかわります。金額はお伝えできません。時給はかなり高額ですが、仕事は不定期なので、年俸は人によります。

私は、仕事以外に様々なボランティア活動をしており、仕事は週に12回のペースですので、年収はそれほど高くはありませんが、一日で、配偶者控除枠内の1か月分の通訳料が支払われるような日もありますので、仕事以外に生きがいをもっている人にとっては、短時間で稼げる魅力はあります。(もちろん負担は大きいですが)

 

Q:なぜドイツ語の通訳になったか?

A:ドイツ語は、大学を卒業してから始めました。目的はオーストリアのスキー学校でスキーを教えることでした。1年間、オーストリアとドイツに滞在し、ドイツ語を学び、スキーのインストラクターとして仕事をしました。その際身に着けたドイツ語を忘れないようにするために、翻訳や単発の通訳の仕事などを引き受けてきました。

司法通訳になったのは、2009年です。大きな事件、というのは知り合いが裁判沙汰となったからです。その時に初めて、自分のもっている語学力を使って、外国人の被告や被疑者の通訳をしてみたいと思いました。

 

Q:黒人の国では薬物は合法か?

A:基本的に、大麻を除くと、ほとんどの薬物、コカイン、ヘロイン、覚せい剤等は、どの国でも違法です。大麻については、欧米を始めとして徐々に合法化されており、日本では違法なのを知っていても日本で大麻を使用したことで捕まる人が最近とても多いです。日本の若者の間にもかなり広がってきていますから、皆さん、甘い誘いには絶対に乗らないようにしてください。

 

Q:司法通訳にAIを取り入れること

A:裁判ではたくさんの証拠が出てきます。その翻訳にAIを使うと、作業時間がとても短縮できるので、それは大いに活用してよいと思っています。人間は感情が入るから、被告側に立ったりするのではないか?という懸念については、基本的に司法通訳はそれを絶対にやってはいけないことになっています。通訳が被告人に加担しているようなことが分かったら、契約は解除となります。私も人間ですから、「かわいそうだな」とか思うこともありますが、余計なことを言って話を混乱させると困るので、そういう感情が湧いても、中立を保つようにしています。

 

Q:犯人の人物像やうそをついているかどうかを、どういう時に感じるか

A:傾向としていえるのは、「よくしゃべる人」はうそをついていることが多いです。それから「黙っている人」はおそらく確信犯です。供述の信用性、ということがよく争点になりますが、最初からずっと同じ話をしている人は、基本的に本当のことを言っていると思います。精神的におかしい人、ウソをついている人は、話のつじつまが合わなくなっていきます。色々な人がいますので、パターンは様々ですが、貧乏ゆすりをしたり、落ち着かずに身体を動かす人は、何か心に不安がある人です。


   


☆杉浦講師の講演を聞いての受講生の感想文は下記をご覧ください

  杉浦講師への感想文.pdf

 


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